連休中、急用ついでに父がふいに東京へ来た。
東京オリンピック・マラソン選考会の余韻が残る銀座を父と二人ぶらぶら歩く。
ふと、万年筆が欲しかったのを思い出し、文房具屋に寄った。
春先に初めての万年筆を買ったのだが、すぐにインクが乾いてしまうので、
次の1本を買うか迷っていたのだ。
普段から万年筆を愛用している父のアドバイスをもとに、店員さんとも相談し選ぶ。
いくつか試し書きをし、ボルドーのボディーで細字の1本を選んだ。
「大人になったね」と冗談交じりで笑いながら、父がそれをプレゼントしてくれた。
その晩、「無事に父が着いた」と母から電話が来た。
口数の少ない父も電話に出て「楽しかったね」と言った。
そして、いつものようにプツンと一方的に電話を切られたのだった。
「手紙を書いてね」と一言残して。
馬場 舞子