夢のとなりで

いや、もしかしたらあの時先生はこう言いたかったのではないだろうか。
「FOOTBALLもいいけど、おまえにはやはりBASEBALLだろ」と。

たしかにあの頃の僕は、野球部の練習に嫌気がさしていて、サッカー部に移ろうかと考えていた。
サッカーが特別好きというわけではなかったが、何かと理不尽な野球部に比べると
自由な雰囲気のサッカー部がなんとなく楽しそうに見えたのだ。

先生はそんな僕の心を見抜いていたんじゃないか。

結局、サッカー部には入らなかった。
野球部に残ることを決めた僕は、その決意がぶれないうちに誰かに伝えておこう思い
密かに心を寄せるクラスメイトの明日香に電話をすることにした。

携帯がまだなかったあの時代、女の子の家に電話するときは緊張感が倍増したものだ。
そんな時に限って出るのはたいてい父親。やっぱり今日も明日香のお父さんが出た。

「はい、どちら様ですか?」不機嫌そうな低い声だ。
「えー、あのー、明日香さんいらっしゃいますか・・」
「おいお前、野球辞めるのか?」

不意を突かれ、動揺した。

噂では明日香のお父さんは昔プロ野球選手だったらしい。日本シリーズで活躍したこともあるようなのだが
名前を聞いても知っている選手ではなかった。

「い、いえ、野球続けます。」反射的に答えた。
「あのなー、野球が嫌になったからサッカーやろうなんて言うやつがサッカーやっても
 上手くなれるわけないぞ。」

動揺が収まらないまま、気が付くと受話器の向こうから明日香の声が聞こえてきた。
「もしもし、ふみ君どうしたの?」 
「あ、あのさー、明日の放課後会えないかな?体育館の裏に来て。話がしたいから。」
それだけ言ってすぐ切ってしまった。

その晩はなんだかよく眠れなかった。

翌日の放課後、体育館の裏に行くとそこにはすでに明日香が待っていた。

増田元長

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